これまで、理想の発声法であるミックスボイスどのようなものか、ミックスボイスが発せられる際に働く筋肉やその機能、そして、ミックスボイス発声を阻む「力み」に関して御説明してまいりました。では、そのミックスボイスを習得するためにはどのような練習を実施していけばよいのでしょうか?ここからは、ミックスボイス習得のためのエクササイズを4回に分けてご説明していきましょう。

力みを払拭すること

ミックスボイスを習得するためにはまず、「歌声」に問わず「普段の会話時に使用する声」も含め、あなたが「声」を発する際に習慣化してしまっている「力み」を一定水準まで取り除く必要があります。

「力みの解消」と一言で言っても、この課題は非常に奥が深いです。あなたが今後、きちんと練習を積み、ある程度力強い高音を正しく発することができるようになった時点でも、恐らく力みの完全払拭には到達していないことでしょう。すなわち、力み解消は歌を歌い続ける以上、ずっと対峙しなければならない課題なのです。

では、長年にわたりついてしまった力み癖を一定水準まで取り除くためのエクササイズを紹介しましょう。

1.口から息を吸った際に喉の奥にひんやりとする感覚を感じる

まず、口で息を吸ってみましょう。勢いよくやりすぎると喉の乾燥を招く恐れがあるので、ゆっくりと少量の息でもって実施してみてください。そして、口の奥に空気があたりひんやりする感覚を意識して感じてみてください。この感覚を得るにくい方は、ミントなど喉がスースーするものを利用すると効果的です。

その「ひんやり」を感じた瞬間咽頭腔が広がり、声に響きが得られることで、発声時の力みから解放されやすくなります。これを習慣化し、発声時に併発する「力み」を少しずつ解消していくのが狙いです。

2.咽頭腔が広がった状態で発声する

この「ひんやり」を感じた瞬間の咽頭腔の開きを保った状態「アーーーー」と声を発してみましょう。ひんやりを感じた瞬間の、咽頭腔が開き、声が響く状態で筋肉の作用を最小限に抑えた状態で発せられる声こそ、現状の貴方の発せうる声の中で最も「正しい声」に近い声なのです。そのことを意識して、できるだけ力みを解消した状態での発声を心がけましょう。

発声音域は、ご自身が無理なく(これが重要!)出せる最も低い声から、同様に無理のない発することができる地声の最も高い高さの音まででよいでしょう。使用するスケール、つまり練習用の音階においては、最も負担のない簡単なものでよいでしょう。

3.発声後、肺に残った息を吐ききること

息を吐ききった瞬間こそ、力みが最大限に取り除かれる瞬間です。そして、息を吐ききった後、意図せずとも身体が自然と息を吸い込むのを確認することができることと思います。これこそ、「力みのない発声を実現するための呼吸の基本形」です。

息を吐き切り、力みが最大限解消される感覚を得、その後、自然と身体に取り込んだ吸気でひんやりを感じ、咽頭腔の開きを得た後、そこで最小限の作用で最大限の響きを有する声を発する。

このイメージを持って発声をするようにしましょう。

体のメカニズムを利用し反射的に生成される「(現状において)最善の声」を意識的・連続的に発声し、それを習慣化すること。これが、練習開始時の力み解消に最も効果を発揮するトレーニングです。

「力み解消」を体感することは、練習開始時においては非常に難しいことです。このエクササイズの実施直後すぐに「力が抜けた感覚」を劇的に実感できることは、残念ながらほとんどありません。「動作を正しく体得すること」フィットネスジムなどで実施される全身を使った筋肉トレーニングの場合、たとえ初心者であってもフォームさえ正しければ、すぐに当該筋肉を使用している感覚を得られるでしょう。しかし、筋肉を使わないエクササイズは、筋肉を使うそれよりも実感を得るのが難しいものです。したがって、まずは結果に捕らわれず、「動作を正しく体得すること」を目標としましょう。

正しい呼吸サイクル

正しい呼吸サイクル

  1. 口から息を吸う
  2. 喉の奥にひんやりする場所を感じる
  3. 感じた瞬間に発声する
  4. 息を吐ききる


この一連の動作が自然とできるようになることがここでの課題です。

この動作が板につけば、実施していくうちに、自然とある程度の力みから開放され、力みが減少していることを確実に実感することができるようになることでしょう。このエクササイズによって、一定水準での力みが解消されたら、次はチェストボイスのエクササイズをお伝えしていきましょう。

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