最も基本的かつ重要な筋肉、輪状甲状筋
輪状甲状筋は、ミックスボイス習得工程において一番最初に鍛えられるべき筋肉です。この輪状甲状筋の機能はたった一つ。それは声帯を伸展、つまり前後に薄く引き伸ばすこと。ミックスボイスを習得するためには、この声帯伸展が前提となります。
ここでは、この最重要筋肉とも言える輪状甲状筋がどのような形状をしており、この筋肉が働くことで声帯やその周辺筋肉・軟骨にどのような変化をもたらすのかについて述べていきましょう。
輪状甲状筋は、4つの筋肉から構成される
まずは、輪状甲状筋の形状について述べていきましょう。輪状甲状筋は左右にそれぞれ垂部と斜部と呼ばれる二腹があり、したがって計4つの腹を持つ筋肉から構成されています。垂部はピッチの跳躍時に、斜部はなだらかなピッチの変化時にそれぞれ必要であるといわれています。しっかりとした高音を発するためには、垂部・斜部の両方を十分に鍛える必要があります。
輪状甲状筋の働き
輪状甲状筋が緊張・収縮すると、それに伴い声帯が前後に伸展されます。すると、それに伴い、声帯は2次的に以下2つの作用を受けます。
声門が開く
輪状甲状筋が機能することで、甲状披裂筋でつながれた拮抗筋である後輪状披裂筋(後筋)が働き、披裂軟骨が外転します。そうすることで、声門が開大します。この開大した状態の声帯では、地声要素を含む声を生成することができませんので、外側輪状披裂筋(側筋)や披裂間筋(横筋)等の閉鎖筋によって、声門を閉じる必要があります。
形状が薄くなる
伸展された声帯は、その分厚みが薄くなります。形状が薄なり、張った状態の声帯は、声帯を含めた振動を起こすことができず、結果、裏声要素のみを含む声を発することしかできません。そこで、甲状披裂筋の働きにより、厚みを維持しつつ、声帯自体を弛緩させることで振動を可能にします。
以上をもって、「ミドルボイス発声のスタンバイ完了」となります。このように、ミックスボイス習得における声帯作用メカニズムの軸となる筋肉である輪状甲状筋は、あらゆる喉頭筋の中でも最も基本的かつ重要な筋肉ということができるでしょう。
輪状甲状筋の作用による、声帯の伸展工程
では、輪状甲状筋が機能することで声帯はどのように伸展するのかについて説明していきましょう。図をご覧ください。
まず、輪状甲状筋が緊張・収縮します。すると、輪状軟骨が甲状軟骨に引き寄せられます。これにより、輪状軟骨上部の披裂軟骨に付着している声帯の後部が後方に引っ張られます。また、甲状軟骨もその作用を受け、若干前方に傾きます。このようにして、甲状軟骨に付着している声帯前部が前方に引っ張られます。こうして、声帯は輪状甲状筋により前後に伸展されます。
さらに詳細を言うと、輪状軟骨はただ回転するだけではなく、最初に前下方にスライドし、その後回転運動を起こします。このとき、スライド運動を担うのが輪状甲状筋のうちの斜部、回転運動を担うのが垂部と言われています。