ミックスボイスとは?のページにおいて、ミックスボイスという発声概念の定義を記載しました。この定義は、私がボイス・リビルディング理論を構築する上で再定義したものですが、その作業をする際に最も参考になったのが、声楽発声における「混声」の概念でした。

オペラハウス

混声は、ミックスボイスの大本となった古典声楽で使われていた発声概念であり、「全声区の融合」を意味します。その具体的内容が記載されていたのが、声楽発声のバイブルといわれるうたうこと 発声器官の肉体的特質―歌声のひみつを解くかぎー(フレデリック フースラー、イヴォンヌ ロッド・マーリング著)でした。

以下、その中の「混声」について記載されていた箇所を一部引用します。素晴らしい記述がなされておりますので、是非ご覧ください。(時間が許される方は、原書を読まれることを強くお勧めします。)

―以下引用―

推知し得る限りにおいては、混声という概念は、偉大なるフランス流派の時代からのものである。その時代と言うのはジャン・ド・レシュケからさかのぼって、およそマヌエル・ガルシアのころまでである。ガルシアおよび彼の後継者たちにとっては、「混声」という概念は「全声区の融合」という意味であった。それは生理学的にみても、声楽的発声に必要なすべての筋肉を、常に集中的に共同作業させるということである。

個々の機能(すなわち、個々の「声区」)を、混ぜ合わせないで、相接して並べるというようなものではないのである。

(中略)

もし、かの偉大なる大家たちが「混声」といったものがありさえすれば(まれには生まれつきそれをもっていることがある)、歌手にとっての「声区の分離」などは全くあり得ない。くり返して言えば、声区の分離場所は、「声区の境界線で必要な、喉頭の内部で行われなければならない、声帯内部の質量(厚さ・長さなどの変化)関係と緊張(伸展・収縮などの釣合の変化関係の内部的変換を、実際にやりとげるのが難しいことによって、生じるのである」

(中略)

まったく健全な状態で働いているのどは、声区変換域において、必ずしも喉頭内部の改築を必要としない。それは、そういうのどでは、喉頭ないしは全発声器官という大建築物のあらゆる機能が、歌唱中のどの瞬間にも、すべてが同時に働いているからである。

その場合には、意図する声の強さ、声の高さ、声の音色などを出すために、全体の統一性を混乱させることがないように配慮して、ある筋肉の働きを強調し、次には他の筋の働きを協調するというふうに、筋肉の機能の強調点を移すということが行われるだけなのである。

いかがでしょうか?ミックスボイスを発声するということがどういうことなのかが見事に表現されていると思いませんか?特に私が「好き」かつ「重要だ」と思う2箇所について、私なりの解釈をご紹介させていただきます。

(「混声」という概念は)「個々の機能(すなわち、個々の「声区」)を、混ぜ合わせないで、相接して並べるというようなものではない」

まさにこのとおりなんですよね。声区(チェストボイス/ミドルボイス/ヘッドボイス)が、それぞれ「正しい」の範囲で発声できているだけではミックスボイス習得には到達し得ません。

ミドルボイスとヘッドボイスを例にするなら、ミドルボイスを発声する際、そのピッチが上がる毎に筋肉の機能はヘッドボイスを発声する際のものに段々と変化し、ヘッドボイスとミドルボイスの境界辺りのピッチにおいては「その筋肉の機能がまるでヘッドボイスを発声している際のように」さらに言えば「ヘッドボイス発声時のそれと区別しようがないような状態」で発声されているのが理想なのです。

こうして、隣の声区との境界周辺を発声する際の筋肉の構造は、その隣の声区発声時のものとほとんど見分けがつかない状態で発声がなされ、最終的には「全音域を通して声区間の筋肉の機能に境がない状態」を目指すべきなのです。

よって、ここに記載のとおり、各声区をそれぞれ練習し、正しく発声できるようにして「並列」させるだけでは不十分なのです。

意図する声の強さ、声の高さ、声の音色などを出すために、全体の統一性を混乱させることがないように配慮して、ある筋肉の働きを強調し、次には他の筋の働きを協調するというふうに、筋肉の機能の強調点を移すということが行われるだけ

これも素晴らしい表現ですね。健全な声というものは、特定の瞬間(例えば、フォルテを発声する際やピッチが変化する際)において、それまで機能してなかった筋肉が急に「出番が来た」とばかりに働き始めるものではないんですね。

例えば、中低音域を発声している際、主に高音域発声時に機能する輪状甲状筋が「完全休憩」している状態ののどは「健全な状態ではない」と記載されている訳です。なぜなら、中低音域においてもその中でピッチの変化は絶えず行われている訳で、ピッチの変化が行われているということは、わずかながらも輪状甲状筋が声帯の長さの変化に加担している「べき」なのです。

逆に言えば、各筋肉が主だった作用を必要としない声区発声時において、機能することを「サボッてしまっている喉」は、突如自分の出番が来た際に、急に機能し出すわけです。このことにより、機能前と後とで喉全体でのバランスに変化が生じ、これがブレイクポイント発生の原因になる訳です。

いかがでしょうか?特に重要だと思える2箇所において、私なりの解釈をご紹介させていただきましたが、やはり原文の持つ「力」はいつ読み返しても色あせることがありません。

うたうこと 発声器官の肉体的特質―歌声のひみつを解くかぎー(フレデリック フースラー、イヴォンヌ ロッド・マーリング著)」。是非、ご一読いただきたい一冊です。

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