同じ高さの声を同じ音量で発した場合においても、人によって声の質は異なります。同じ歌を同じ高さで歌っているのに、ある人の声は広がりのない「のっぺりとした声」であるのに対し、ある人の声は「響きが空間に広がる声である」歌うことに興味がある人であれば誰でも、そんな「声質の個人差」に思いを巡らせたことがあるかと思います。願わくば、後者の人のような声で歌えるようになりたいものですよね。

ではこのような声の差はどこから生まれてくるのでしょうか?科学的観点から見た場合、このページで取り上げるフォルマントにそのヒントがあるようです。

声質の違いは倍音にあり

声帯は、振動運動を起こすことによって声の元となる喉頭音源を生成します。その喉頭音源は、一つの音でのみ構成されるわけではありません。例えば、A4(440Hz)の音を発した場合、その声の喉頭音源には440Hzの音だけでなく、880Hz、1320Hz、1760Hz、2200Hz…といった具合に、発せられる声と同じ音である440Hzの整数倍の音が含まれます。

発せられる声と同じ高さの構成音は基本波、それ以外の構成音を上音、そして、基本波と上音、全ての構成音を部分音といいます。

実はこの声帯音源の部分音の強さ自体は、人によってそこまで大きな違いはありません。最も大きいのが基本波であり、上音においては、周波数が大きくなる毎に音のレベルは弱くなります。(上音が1オクターブ上がる毎に約12db小さくなると言われています。)

ですが、この規則的に減少した上音がそのまま外に発せられるわけではありません。実は、この上音を増幅することができるのです。この上音を増幅させることが上手な人が、広がりのある声を発することができるわけです。これを決定するのが「声道」です。声道は声の共鳴部であり、各部分音の音レベルに影響を及ぼすのです。では、声道はどのように各部分音の音レベルに変化をもたらすのでしょうか?

実は、声道には特定の周波数の音の音量を大きくするポイントが存在します。そのポイントはいくつも存在しますが、発せられる声の特徴を決定付けるのに重要なのは、振動数が小さい方から5つまでのポイントであると言われています。このポイントをフォルマント、そのポイントの周波数をフォルマント周波数といいます。文章では伝わりにくいので、図で表してみましょう。

フォルマント

一番下のグラフが、ある音を発した際の喉頭音源の基本波と上音の周波数とその音のレベルを示したものです。上音のレベルがピッチ上昇とともに規則的に減少しているのが分かります。

真ん中のグラフは、第1~第4フォルマントを示したグラフです。

そして、一番上のグラフが喉頭音源を構成する部分音が各フォルマントの影響を受け、声として発せられた際の、各周波数の音レベルを示したものです。フォルマント周波数に近い部分音の音レベルが突出して大きくなっているのが分かりますね。このように、フォルマント、つまり上音増量ポイントの分布のされ方が、発する声の質に大きく影響を及ぼすことが解明されてきています。

共鳴腔

また、「第1、第2フォルマントの分布」が発せられる母音を決定し、「第3、4、5フォルマントの分布」が声質を決定するといわれています。

特に第4フォルマントが豊かな響きにおいて重要といわれており、この第4フォルマントを決定するのが咽頭腔と呼ばれる共鳴腔です。したがって、響きの豊かな声を発するためにはこの咽頭腔を十分に広がる必要があります。


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