内喉頭筋とは、咽頭内にある軟骨群(甲状軟骨、輪状軟骨、披裂軟骨)をつなぐ筋肉群のことを指します。内喉頭筋には

  • 声帯を薄く引き延ばす(伸展させる)
  • 声門を広げる(外転・開大させる)
  • 声門を狭める(内転させる)
  • 声帯に厚みを加える
  • 声帯を閉鎖する
  • 声帯を弛緩させる

上記のとおり、様々な役割があります。

喉頭位置

正しい発声を身につけるにはこれら全ての筋肉の機能性に高め、十分にコントロールする必要があります。「コントロール」というのは、声帯に強く作用させることはもちろん、作用させすぎず、適度に機能させることを意味します。

また、これらの筋肉は単一で声帯に作用することはほとんどありません。声帯を引っ張る筋肉と声帯を弛緩させる筋肉が同時に機能したり、ある筋肉により声門が広げられる一方、別の筋肉は声門を閉じるように機能するなど、相反する機能を持つ筋肉同士が同時に働くことがほとんどです。このような筋肉の作用バランスの中で、声帯は発声におけるベストコンディションを手にすることができます。

以下、各筋肉の名称とその機能についてご紹介していきます。各筋肉がミックスボイス発声を実現するにあたり、筋肉郡の中でどんな役目を担っているのかを理解していただければ、筋肉の働きだけでなくミックスボイス習得の練習工程の全体像が見えてくるでしょう。

輪状甲状筋(前筋)/声帯伸展

輪状甲状筋

輪状甲状筋はミックスボイス習得において、どの筋肉よりも先に機能性を高める必要がある筋肉です。なぜなら、声のピッチ(高低)を変化させるのがこの輪状甲状筋だからです。まずは声に正しく高低をつけらえれるようにする。その後、「ファルセット→ヘッドボイス→ミドルボイス」と発声できる声のバリエーションを広げていくこれが正しいミックスボイス習得の手順です。

輪状甲状筋は声帯を前後に伸展させ、薄く引き伸ばします。この作用により、声帯は高音を発することができるようになります。ギターは弦がきつく締められる程に音が高くなりますが、これと同じ原理です。輪状甲状人の機能を高めることは、正しい発声を習得する上での前提条件となります。

輪状甲状筋を軸に考える

ミックスボイスを習得する手順を喉頭筋の機能の観点から理解する際「輪状甲状筋を「軸」、その他の筋肉を「輪状甲状筋の補完役」として認識すると理解しやすくなります。1.輪状甲状筋を機能させ、高い音域を無理なく発声できるようになる。2.その他の筋肉を機能させ、その声に肉付けをしていく。という手順です。

輪状甲状筋が十分に機能するようになると「ファルセット」が発声できるようになります。このファルセットを「ヘッドボイス」(閉鎖筋の作用)に変え、ヘッドボイスを「ミドルボイス」(声帯筋の作用)に変える。これがミックスボイスの習得過程です

後輪状披裂筋(後筋)/声帯伸展・開大

後輪状披裂筋

輪状甲状筋だけでは声帯を伸展させることはできません。輪状甲状筋からの作用を受け止める力(筋肉)が必要です。

この役目をするのが、この後輪状披裂筋です。輪状甲状筋の力を受け止める後輪状披裂筋は、輪状甲状筋の「拮抗筋」と呼ばれます。

拮抗筋は対象筋肉の作用を「促進」かつ「制御」する?

拮抗筋とは、ある筋肉が機能する際、その機能と反対方向に働く筋肉のことを指します。

綱引きは「綱を両方向から引っ張り合う」スポーツです。両チームを筋肉ととらえた場合、お互いがお互いの拮抗筋ということになります。ある筋肉が対象に作用する際拮抗筋がそれを「助長」かつ「制御」します。助長と制御、相反する言葉ですが、これはどういうことでしょうか。

例えば、チームAが綱を引く際、「(対象に)張力を与える」という視点からは、拮抗筋のチームBからの作用はそれを「促進」するものとなります。一方、「(自分達の方に)引き寄せること」という視点からは、チームBからの作用は、それを「制御」するものとなります。

したがって、筋肉の作用の「捉え方」によって、その拮抗筋は「促進」するものにも「制御」するものにもなるのです。

喉頭筋群が拮抗筋としてお互いに作用し「全体が調和した状態」で声が発せられることが豊かな声を発するのに必要不可欠です。

外側輪状披裂筋(側筋)と披裂間筋(横筋)/声門狭小

外側輪状披裂筋(側筋)と披裂間筋(横筋)

輪状甲状筋と後輪状披裂筋の作用により、声帯は伸長した状態となります。この状態で発声できるのは「ファルセット」。さらに高音域を力強く歌うためには、開いた状態の声門を狭める必要があります。(もちろんファルセットも重要な表現方法の1つです。)

この声門を狭める作用を担当するのが外側輪状披裂筋(側筋)と披裂間筋(横筋)です。この声門を狭める作用、および閉鎖する作用内転といいます。(この内転作用を起こす筋肉をまとめて閉鎖筋と呼びます。閉鎖筋と表現した場合、この外側輪状披裂筋と披裂間筋、それから後に紹介します甲状披裂筋が含まれます。)以上の筋肉により、声帯が伸展し、声門が狭小した状態になると、ヘッドボイスが発声できるようになります。

外側輪状披裂筋の「外側」は「がいそく」と読みます。外側輪状披裂筋は字のとおり、両側面から輪状軟骨と披裂軟骨をつなぎます。披裂間筋は「横披裂筋」とも呼ばれます。披裂間筋は、対の披裂軟骨を括るようにつないでいます。

外側甲状披裂筋(外筋)/低音域発声

外側甲状披裂筋

ここで、低音域における筋肉の作用を見ていきましょう。

低音域発声に影響を及ぼしていると言われているのが、この外側甲状披裂筋です。この外側甲状披裂筋と低音域の因果関係はきちんと証明されていません。したがって、あくまで「推測」の域を超えない話になります。この外側甲状披裂筋は発声以上に、食べ物を飲み込む際、それらが気管に入ってしまわないように機能するという重要な役割があります。

生命維持において重要な機能であるが故、ほとんどの人がこの筋肉においては訓練せずに十分に機能させることができますが、むしろ「機能させすぎてしまう」方が多いようです。低音がうまく出せない多くの原因は、この外側甲状披裂筋の「力み」にあります。(詳しくは理想的な低音が発される際の筋肉群の働きのページでご確認ください。)

ここからは「声帯」の内側の話になります。

内側甲状披裂筋(内筋)/声帯接近・弛緩・形状維持

内側甲状披裂筋

伸展・狭小した声帯はヘッドボイス発声を可能にします。このヘッドボイスに地声要素を与え、ミドルボイス発声を実現するのに必要なのが、内側甲状披裂筋です。

内側甲状披裂筋は声帯に接近・弛緩・形状維持これら3つの作用をもたらします。詳しくは内側甲状披裂筋の働きのページをご確認ください。

声帯筋/声門閉鎖・声帯一部振動

声帯筋

声帯筋は、内側甲状披裂筋(内筋)のさらに内側の筋肉を指します。内側甲状披裂筋と声帯筋の正確な境目はありませんが、これらを区別して扱うのには理由があります。それは、ミドルボイス発声のために内側甲状披裂筋の内側部分(声帯筋)を強く意識する必要があるからです。

高音域をミドルボイスで発声できない人の声帯筋は、運動機能が眠っている状態といえます。ミドルボイスを発するためには、この筋肉を覚醒させる必要があります。

声帯筋が覚醒しはじめると、声帯筋部分のみが振動するようになります。すると、薄く伸展した声帯において「閉鎖期」を有する喉頭音源が生成されるようになり、地声要素を含む声を発声できるようになります。

さらに声帯筋の運動機能が向上し、末端部分の筋繊維まで機能するようになると、声帯筋の先端のみを振動させることができるようになります。こうして機能部分の体積が小さくなる程、地声要素を含む声の発声可能域が上がっていきます。こうしてミドルボイスが完成、ミックスボイスが習得できた状態となります。

以上がミックスボイスを習得工程の流れに沿ったおおまかな内喉頭筋郡の働きとなります。実際の喉頭周辺筋肉の筋作用はもっと複雑なものですが、こうして筋肉の大まかな働きを認識することで、ミックスボイス習得工程をダイナミックに認識することができます。是非、発声練習時の筋肉の作用イメージにお役立てください。

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