外喉頭筋は鍛えるものではなく、柔軟にすることが大事

外喉頭筋

多くの著書やサイトで外喉頭筋が「強化すべきもの」として表現・紹介されていますが、これは危険な表現です。発声に関し不全感を感じてる方、特に「輪状甲状筋の機能不全を起こしている人」のほとんどは、いずれかの外喉頭筋を過剰に働かせてしまっています。外喉頭筋にとって重要なのは、強化することではなく、柔軟にストレッチし、過剰な機能をさせないようにすることです。

筋肉ストレッチの意義は、筋肉の緊張・収縮方向と逆の方向の力を作用させ、慢性化した萎縮を減少させることです。当該筋肉を無理のない範囲でストレッチさせるを継続的に行うことで、筋肉の柔軟性を撮り戻ることができます。

フースラーの「うたうこと」が出版された時代は外喉頭筋のいくつかが喉頭懸垂機構、および間接的喉頭懸垂機構の引き上げ筋/引き下げ筋として紹介され「しっかり強化することがミックスボイスの足場作りにおいて必須条件」とされていました。しかし、近年の様々な研究により、外喉頭筋の過剰緊張は、むしろハイラリンクスや喉頭の埋まり込みを引き起こすなど、発声において悪影響を及ぼすことが解明されてきました。

外喉頭筋は、舌骨上筋群・舌骨下筋群・咽頭収縮筋群の3つに分けられます。これらを順にご紹介していこうと思いますが、その前に「喉頭のポジショニングの基盤を担っている3つの筋肉」をご紹介させていただきます。

数が多く、名称も似たような筋肉が複数存在する外喉頭筋を、すぐに概要把握するのは少し難しいかもしれません。ですが、先ほども申し上げましたとおり、これらの筋肉の過緊張は、声に大きく悪影響を及ぼします。ゆえに、外喉頭筋群のリラックスは必要不可欠です。

しかし、「単にリラックスしなさい」と指示されても、どこをどのように弛緩すればよいのかイメージがわかなければ積極的なリラックスは望めません。その際、喉周辺の筋肉がどのように構成されており、それぞれの筋肉が具体的にどう声に影響を及ぼすのか、そして、その筋肉を弛緩させるためにはどのようなストレッチをするのが効果的なのか、その知識があることで積極的な外喉頭筋のリラックスを実施することができるようになります。

筋肉の具体的なストレッチ法は、各筋肉のページでご紹介します。当ページは外喉頭筋の構造および役目について学んでいただければと思います。

喉頭ポジショニング基盤筋①甲状軟骨と舌骨を結ぶ「甲状舌骨筋」

外喉頭筋群をご紹介する上でまずご紹介したいのが舌骨です。舌骨は喉頭の上部に存在し、強力な筋肉によってつながれているが故、その動きは喉頭同様、発声に大きく影響を及ぼします。まずは、この喉頭(甲状軟骨)と舌骨を深く結び付けている筋肉をご紹介しましょう。

甲状舌骨筋

甲状舌骨筋

喉頭と舌骨の関係を深いものにしている筋肉、それが甲状舌骨筋です。図のとおり、甲状舌骨筋は甲状軟骨と舌骨を結ぶ筋肉です。この甲状舌骨筋は舌骨上筋群に属する筋肉です。この筋肉が緊張・収縮すると、舌骨が固定されている場合は喉頭が挙上され、喉頭が固定されている場合は舌骨が後下方に引き下げられます。

この筋肉は喉頭と舌骨をつなぐ非常に重要な筋肉であると同時に、強力です。多くの方が、特に高音発声時にこの甲状舌骨筋を過剰に働かせてしまう傾向があります。その結果、生じるのがハイラリンクスという現象です。また、ボイスケアサロンの會田先生によると、この甲状舌骨筋の過剰機能により声帯と舌骨間が狭くなると、その間に存在する上喉頭動脈が圧迫を受け、結果、声帯の血流不足を引き起こす原因となるとのこと。必ず柔軟性を獲得させたい筋肉です。

喉頭ポジショニング基盤筋②③喉頭を吊り下げる「茎突咽頭筋・茎突舌骨筋」

続いて、喉頭を吊り下げている筋肉を2つご紹介します。ひとつめの茎突舌骨筋は、喉頭と強くつながった舌骨から喉頭を吊り下げます。ふたつめの茎突咽頭筋は、喉頭後方から直接喉頭を吊り下げます。

茎突舌骨筋

茎突舌骨筋

茎突舌骨筋側頭骨の茎状突起から始まり、舌骨へとつながる筋肉です。茎突舌骨筋が緊張・収縮すると、舌骨が後上方に挙上します。茎突舌骨筋には「嚥下を補う」という重要な機能があります。この茎突舌骨筋は、舌骨上筋群に属する筋肉です。

しかしながら、この筋肉が過剰緊張すると、喉頭の埋まり込みを引き起こし、その結果舌骨と共に喉頭が後上方に挙上、咽頭腔が狭まり、声の響きが阻害される原因となります。


茎突咽頭筋

茎突咽頭筋

この茎突咽頭筋は、咽頭収縮筋に始まり、舌骨へとつながる筋肉です。この茎突咽頭筋も茎突舌骨筋同様、喉頭を吊り下げる役目を担っています。

茎突咽頭筋の過剰緊張は、先ほど紹介しました茎突舌骨筋の過剰緊張時と似たような発声における弊害を引き起こします。さらに、茎突舌骨筋は中に支えとなる靭帯が含まれていますが、この茎突咽頭筋には靭帯が存在しません。結果、茎突舌骨筋よりも力が入りやすく、特に注意すべき筋肉であるといえます。したがって、普段からの積極的なリラックスを最も心がけたい筋肉の一つと言えます。

舌骨下筋群

では、外喉頭筋群の中の舌骨下筋群をご紹介していきましょう。前述の茎突舌骨筋と茎突咽頭筋により、喉頭と舌骨はブランコの様に宙に浮いた状態になります。この喉頭・舌骨を前下方に引き下げ、固定する筋肉胸骨甲状筋・胸骨舌骨筋・肩甲舌骨筋の3つになります。

胸骨につながれた胸骨甲状筋・胸骨舌骨筋は、甲状軟骨を前下方に引き下げる機能があり、これら2つの筋肉は外喉頭筋の中で唯一、積極的に強化したい筋肉となります。一方、肩甲舌骨筋は甲状軟骨を後下方に引き下げる筋肉であり、他の外喉頭筋同様、リラックスが求められる筋肉となります。

胸骨甲状筋

胸骨甲状筋

胸骨柄・第一肋軟骨から起こり、甲状軟骨に停止します。最初にご紹介した甲状舌骨筋と連続して走行します。この胸骨甲状筋と甲状舌骨筋のセットは、次にご紹介する胸骨舌骨筋の直下に存在します。甲状軟骨と舌骨を前下方に引き下げる筋肉として、胸骨甲状筋と甲状舌骨筋のセットと胸骨舌骨筋を視覚的に合わせてイメージすると記憶しやすいでしょう。

この胸骨甲状筋は、低音発声時に機能・強化されると言われております。フースラーの「アンザッツ2」は、この胸骨甲状筋の機能時に感じることができるとされています。


胸骨舌骨筋

胸骨舌骨筋

胸骨柄・第一肋軟骨から起こり舌骨体部に停止します。先ほどご紹介しました胸骨甲状筋と甲状舌骨筋セットの真上に存在します。この筋肉も、胸骨甲状筋同様、喉頭を引き下げる作用がある筋肉です。

先ほどの胸骨甲状筋とこの胸骨舌骨筋の作用方向は、後上方に挙上しやすい喉頭に対し、逆方向になります。すなわち、この2つの筋肉は、外喉頭筋の中でも積極的に強化させたい筋肉ということができます。


肩甲舌骨筋

肩甲舌骨筋

肩甲舌骨筋肩甲骨上縁から起こり、舌骨体に停止します。肩甲骨から舌骨に向かう途中で中間腱と呼ばれる腱が介在し、中間腱を境に上腹下腹に分かれます。肩甲舌骨筋が収縮すると舌骨を後下方に引き下げます。

肩甲舌骨筋は舌骨を下垂させる筋肉ではありますが、その方向が後方であるが故、過剰緊張が「喉頭の埋まり込み」を引き起こす筋肉となります。肩甲舌骨筋が緊張しやすい人は、発声時に「筋肉の盛り上がり」を確認できることがあります。自覚症状がある人は、積極的なリラックスが必要です。


舌骨上筋群

続いて、舌骨上筋群をご紹介しましょう。舌骨甲状筋は、舌骨につながり、喉頭とまとめて挙上させる筋肉群になります。したがって、これらの中にはハイラリンクスを引き起こす原因となる筋肉が多く含まれています。一番最初にご紹介しました甲状舌骨筋はその中の一つでしたね。以下ご紹介する筋肉のうち、2つはその過緊張が前上方と後上方へのハイラリンクスを引き起こす筋肉となります。早速、ご紹介していきましょう。

顎二腹筋

顎二腹筋

この顎二腹筋は、字のごとく腹、つまり筋のふくらみが前腹・後腹と2つ存在する筋肉です。肩甲舌骨筋もそうでしたね。顎二腹筋前腹は下顎骨から始まり、舌骨上に付随する腱で終わります。そして、後腹は側頭骨の乳突切根から始まり、同様に腱で終了します。

舌骨が固定された状態でこの筋肉が収縮すると、下顎骨が舌骨に引き寄せられます。この働きは口を開く際の機能となります。逆に下顎骨を固定(閉口)した状態(閉でこの筋肉を収縮すると、舌骨が前上方に挙上します。

顎二腹筋(特に後筋)が過剰緊張すると、喉頭が後上方に挙上、結果、ハイラリンクスが生じてしまいます。よって、この顎二腹筋も普段からやわらかい状態の維持が欠かせない筋肉です。

顎舌骨筋

顎舌骨筋

顎舌骨筋下顎骨から始まり、舌骨へと広がり伸びている筋肉です。顎舌骨筋が収縮すると、舌骨が前上方に挙上します。また舌骨が固定された状態でこの筋肉が収縮すると、下顎骨が後下方に引き下げられます。すなわち、顎舌骨筋も顎二腹筋同様、口を開く際に機能する開口筋となります。

顎舌骨筋が収縮すると、前上方に舌骨が挙上します。この筋肉が特に過剰緊張する人は舌骨が盛り上がり、喉頭が前上方へのハイラリンクスを引き起こします


オトガイ舌骨筋

オトガイ舌骨筋

オトガイ舌骨筋は、顎舌骨筋と同様、下顎骨から舌骨をつなぐ筋肉です。顎舌骨筋、そして顎二腹筋前筋と強調し開口筋として働きます。このオトガイ舌骨筋が適度に働くようになると、舌骨が前面移動し、結果、咽頭腔が広がり声の響きが豊かになる効果が期待できます。


咽頭収縮筋群

咽頭収縮筋

最後に咽頭収縮筋群をご紹介します。咽頭収縮筋群は、嚥下時に収縮し、食塊の逆流を防ぐ役目を持つ筋肉です。したがって、嚥下時にはきちんと収縮、機能することが重要ですが、発声時においては、この筋肉が過緊張の状態だと、発せられる声が響きの乏しいものとなってしまいます。

咽頭収縮筋は3つ存在し、上から順に上咽頭収縮筋、中咽頭収縮筋、下咽頭収縮筋となります。また、これら咽頭収縮筋の下に輪状甲状筋と食道をつなぐ輪状収縮筋が存在します。これらの中で発声に影響を与えるのが、中咽頭収縮筋下咽頭収縮筋、および輪状収縮筋となります。

中咽頭収縮筋は、舌骨から開始しているため、過緊張することで舌骨を奥に引っ込め、咽頭腔を狭小させてしまうことになります。下咽頭収縮筋・輪状咽頭収縮筋はそれぞれ、甲状軟骨・輪状軟骨と食道をつなぐ筋肉です。よって過剰収縮することで、喉頭を深奥させ、輪状甲状軟骨の自由運動を阻害してしまう原因となります。

以上、外喉頭筋群のご紹介をさせていただきました。のストレッチ方法については、各筋肉のページをご参照ください。

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