内側甲状披裂筋は、声帯の中にある筋肉を指します。「声帯は他の筋肉からの作用を受動的に受け、ただ振動するだけのものである」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、実はこの声帯の中の筋肉である内側甲状披裂筋もミックスボイス発声を実現するための環境づくりの一員として機能しているのです。つまり、内側甲状披裂筋は自ら振動しながら、声質に関わるコンディション調整も担う、様々な役割を任されているとても重要な筋肉なのです。
この内筋が担当する「声質に関わるコンディション調整機能」は3つ存在します。以下、それらをご紹介していきましょう。
三つの機能
声帯接近
ひとつめは、声門をさらに狭小し、対の声帯同士を接近させることです。外側輪状披裂筋と披裂間筋、これら2つの閉鎖筋により、声門は狭められます。しかし、これらの筋肉はいずれも声帯の後方を中心に引き寄せる作用をするだけです。これだと、声帯の中央部がまだ開いた状態のままになってしまいます。そこで、この内筋が機能することで初めて、声帯の中央部の距離が狭まり、結果、声帯が接近した状態となります。
弛緩
ふたつめは声帯の弛緩させる機能です。前後にしっかりと伸展した声帯は、その張力によって筋肉部からの振動ができない状態にあります。ミドルボイス発声には声帯が「伸展」と「筋肉部からの振動」を両立する必要があります。それを実現させるために、伸展した状態の声帯を弛緩させる必要があります。この役目を果たすのが、この内側甲状披裂筋なのです。
張力が声帯の外側に向かって働くのに対し、内側甲状披裂筋は内側に「収縮」します。こうして逆方向への力を作用させ、相殺することで声帯を弛緩させるのです。
形状維持
最後は、声帯の厚みを維持する機能です。完全に受身の状態で伸展した声帯は、その形状も薄く引き伸ばされてしまいます。薄くなってしまった声帯は、軽い声すなわち「裏声要素のみを含んだ声」しか発することができません。地声要素を含む声を発するには、声帯はある一定の厚みを持たなければならないのです。この厚みを持たせる役目が内側甲状披裂筋の3つ目の役割なのです。
全体のバランスを保つ、適度な働きが求められる内側甲状披裂筋
内筋は重要な筋肉ではありますが、一方、多くの人が過剰に働かせてしまう筋肉です。その原因として、輪状甲状筋・声帯筋の機能不全が挙げられます。これらを補おうと内筋を過剰に働かせてしまうわけです。内筋の過剰機能は、結果、声帯を硬直させます。「内筋の機能が声帯弛緩なのであれば、内筋が作用する程、声帯は弛緩するのではないか?」と疑問に思われるかもしれません。ですが、そうではありません。
内筋の機能に弛緩作用があるのは、前提としてそこに輪状甲状筋による張力が働いているからなのです。つまり、張力と内筋とのパワーバランスが声帯に弛緩をもたらすのです。このバランスが崩れてしまうと、ミドルボイス発声を実現することはできません。内筋を過剰に働かせてしまう人は、輪状甲状筋の強化と声帯筋の覚醒を再度見直すとよいでしょう。