裏声というと、その名からも地声と比較さすると「脇役」「サブ」そんなイメージをもたれることが多いです。しかし、裏声はミックスボイスを習得する上で非常に重要な声(声の要素)です。ここでは、裏声がどのように生成されるのか、そのメカニズムについて言及していきたいと思います。
裏声とは、声帯粘膜部のみの振動で生成される声
地声の発声メカニズムのページをご覧になっていただけましたでしょうか?声帯は表面から粘膜上皮→ラインケ腔→声帯靭帯→声帯筋の順に層になっています。この4層全体でもっての振動で生成される声が地声になります。一方、裏声はこの中の声帯筋以外のいわゆる粘膜部のみで起こる振動運動でもって生成されます。すなわち、裏声は以下のようにあらわすことができます。
さらに、裏声にはもう一つ特徴があります。それは、振動運動に閉鎖期が存在しないということです。以下は地声が発せられる際の声帯振動の様子をしめしたものです。
見てみると、声帯が開いた状態(3.4.5.6)と閉じた状態(1.2.7.8)の2種類を確認することができるでしょう。このうちの閉じた状態のことを閉鎖期と呼びます。
声帯振動を考える上で、この閉鎖期は非常に重要です。なぜなら、この閉鎖期は声の強さと非常に密接な関係にあるからです。(詳しくは後の声の強さに関するページにて)
呼気により、下から声門にかけられる圧力を「声門下圧」といいますが、この声門下圧が上がるほど、発する声の音量レベルは増加します。声門が開いている場合、呼気がその部分から抜け、結果、声門下圧は上がりません。したがって、音量レベルの高い声を出すには、閉鎖期のある喉頭音源を生成する必要があるのです。
この閉鎖期のある喉頭振動こそ、地声要素を含む声なのです。すなわち、
地声:閉鎖期が存在する喉頭音源で生成される声の要素
裏声:閉鎖期が存在しない喉頭音源で生成される声の要素
したがって、裏声を定義づけすると以下のようになります。
声帯の粘膜部のみでの振動で生成される声の要素
閉鎖期が存在しない喉頭音源で生成される声の要素
1に輪状甲状筋、2に外喉頭筋郡
「裏声の主役」と言えば、間違いなく輪状甲状筋です。ボイス リビルディング理論では、この輪状甲状筋を最も重要な筋肉として扱います。
この輪状甲状筋が働かない人は、正しい裏声要素を含む声を出すことができません。輪状甲状筋は声帯を伸展させます。すなわち、声帯を伸展させ、形状を薄くし、粘膜部のみを振動させるのです。このようにして正しい裏声は発せられます。
ですが、自分自身で「裏声を出せる」と認識されている方の中には、声帯を伸展させず、緊張させることで振動を停止させ、間違った裏声を発している人が多く存在します。貴方は、正しい裏声を発せていますか?
3種類ある裏声
先ほども述べたように、正しい裏声をきちんと発している方がいる一方、正しくない裏声を発している方も多くいらっしゃいます。ボイスリビルディングでは、間違った出し方の裏声も含め、地声同様、裏声を3種類に分けています。そのわけ方は以下のようになります。
- 「力み」を含む裏声
- 「力み」はないが、声門が大きく開いており、芯が存在しない裏声
=ファルセットを構成する裏声 - 「力み」がなく、声帯通しが十分に近づいており、芯が存在する裏声
=ヘッドボイスを構成する裏声
これら3つの声をイメージ化したのが以下の図です。地声の場合、正しい声は1種類のみでした。ですが、裏声の場合、ファルセットを構成する裏声とヘッドボイスを構成する裏声はともに正しい裏声に分類されます。
ファルセットは歌の表現に非常に重宝します。しかし、ミックスボイス習得を目的とした際、ミックスボイスの真骨頂であるミドルボイスを高音域で発声する際、その足がかりになる声はファルセットではなくヘッドボイスとなります。
したがって、ファルセット、ヘッドボイスはいずれも正しい裏声で構成される声であり、それゆえに正しい発声法を習得する際には、どちらも習得必須ということができるでしょう。