発声をする際には、3つの重要な動作があります。ひとつめはこのサイトで重点的に取り上げている喉頭音源を生成するという動作。この動作は御存知のとおり声帯そして喉頭筋群がその役割を担います。ふたつめが生成された喉頭音源を響かせるという動作になります。この動作において重要なのが共鳴腔であり、特に重要なものとして咽頭腔が挙げられます。

そして、最後がここで取り上げる呼吸になります。呼吸を担当する器官は肺、そして肺の周辺筋になります。今回は呼吸のメカニズム、そして発声練習時の呼吸について説明していきたいと思います。

呼吸のメカニズム

呼吸のメカニズム

ご存知かと思いますが、呼吸は、肺が膨張・収縮することによって行われます。しかし、肺自体が能動的に機能する訳ではありません。肺を膨張・収縮させるのは、肺の周辺筋肉になります。では、呼気時・吸気時それぞれの際に機能する筋肉をご紹介していきましょう。

息を吸う際に使用される主な筋肉は肋間筋のうちの内肋間筋、そして横隔膜筋になります。内肋間筋が収縮と胸郭の体積を増加させます。また、横隔膜筋が収縮すると、横隔膜は下がり、腹壁は外方向に押し出されます。これらの筋肉が能動的に機能することで、肺の体積は膨張します。

一方、息を吐く際に使用される主な筋肉は肋間筋のうち外肋間筋腹壁の筋肉となります。外肋間筋が収縮すると胸郭は収縮腹壁の筋肉が収縮すると横隔膜が元の位置に押し戻されます。このような作用のもと肺の体積は縮小します。

これらは、呼吸時に能動的に働く筋肉となります。しかし、呼吸時に機能する筋肉はこれらの筋肉だけではありません。呼吸には受動的に働く力が存在します。深呼吸をしてみてください。息を思いっきり吸った後、意図的に筋肉を作用させなくても呼気の力が作用するのを感じることができるでしょう。反対に、息を限界まで吐いた後、吸気が自然に生じることも同様に感じられると思います。

この力は呼吸時の復元力ということができます。この呼吸における受動的復元力は、主に会話時の呼吸に使用されます。

ボイス・リビルディングが受動的復元力を発声練習時の呼吸に使用する理由

ボイス・リビルディングでは、発声練習時の呼吸をこの受動的復元力でもって行います。以下、その理由をご説明しましょう。呼吸のメカニズムでご紹介した能動的な呼吸筋を発声時に使用しようとする際、喉頭周辺筋は連動して機能します。これは、歌唱時(パフォーマンス時)には必要な生理現象です。したがって、最終的にはこの連動作用を機能させながら歌を歌うことが求められます。そうでなければ、躍動的な歌を表現することはできないでしょう。

しかし、力みがある状態でこの連動作用が生じてしまうと過剰な内転が生じ、結果的に喉詰りが生じてしまいます。したがって、まずは受動的復元力を使用した呼吸のもとで連動を断った状態で発声練習を行い、声帯とその周辺筋を鍛えていく必要があるのです。

こうしてトレーニングによって発声時の力みを払拭させ、各ピッチにおける適度な内転を声帯周辺筋が覚えた後、少しずつ「能動的な呼吸筋」を再度呼吸に取り入れ、呼吸筋と喉頭周辺筋の連動を再開させていくのです。こうすることで、声帯に無理をきたすことなく、合理的・効率的に声帯や周辺筋を発声に適応させていくことができるのです。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitter で