先日、「ミックスボイスを発声した際の感覚を教えてください」という質問をいただきました。そこで今回はミックスボイス発声をした際の「感覚」について言及していこうと思います。
ミックスボイス発声は、声帯周辺の筋肉を十分に働かせた上で、声帯自身の機能性を向上させることができた際に発声ができるようになるものです。ミックスボイス発声で持って声を発する際の感覚は特有のものです。よって「暑い・寒い・痛い・くすぐったい」などの一義的な感覚をあらわす言葉で簡易的に表現できるものではありません。
したがって、発声時の感覚そのものを形容するよりも、日常生活の中で、この感覚を表現するのに適するものを引用することで、この感覚をお伝えするという作業を試みていきたいと思います。
※追記:当ページでは「ミックスボイス発声時の感覚」についてご紹介しておりますが、「ミックスボイスの習得工程で得られる正しく声帯が触れ合う感覚」においては、声帯筋の働きのページにてご紹介しております。あわせて御参照ください。
感覚説明の前に。需要なのは「力」ではなく「繊細さ」
声帯内の筋肉(声帯筋を含む甲状披裂筋)に求められるのは、強く作用することではなく、機能性を向上させることです。能性を上げるというのは筋肉の柔軟性を高めるということです。これは、神経を先端までいきわたらせることを意味し、そのためには、繊細なトレーニングが求められます。
この「繊細さを問われるトレーニングの実施後に柔軟性を得られる行為」、これは「身体のストレッチ」に置き換えて考えると分かりやすいのではないでしょうか?特に「長座体前屈」はイメージをするのによい例になります。
「長座体前屈」で体のストレッチをする際によく言われるのが「痛気持ちよいところで止めること」です。それ以上の角度でのストレッチは逆に体を痛める要因になりうる危険な行為です。この「いた気持ちよさのポイントを見極める作業」というのは、「繊細な作業」になります。
効果的なストレッチ効果を得るためには、神経を脚部に集中させ、このポイントを正確に見極めなければなりません。でなければ、効率的なストレッチ効果を得ることはできないでしょう。これは、そのまま声帯の機能性向上にも言えることです。すなわち、筋肉の柔軟性を得るには「力ずく」ではなく「繊細さ」が重要なのです。これを踏まえた上で、ミックスボイスの感覚の話を続けていきましょう
小学校の頃に吹いたリコーダー
では、ミックスボイス発声中は、具体的にどのような感覚が得られるものなのでしょうか?この感覚を表現するのに「リコーダー演奏」を例に挙げたいと思います。
小学校の際に、音楽の授業でリコーダーの演奏をした覚えがありませんか?リコーダーって、きれいな音を出すことが結構難しいんですよね。実は、このリコーダーで雑音が混じらない、きれいな音を出せた際の感覚とミックスボイス発声を実現した時の感覚が似ているのです。
「何を言っているんだ」「身体の感覚と関係ないじゃないか」おおよそそんな声が聞こえてくるようです。しかし、身体の中でも特に小さな器官である声帯が感じる感覚は、前屈時の「痛気持ちいい」のように明確に表現できるものではありません。したがって、その感覚を適切にお伝えするためには、多少この記事をお読みいただいている方にも努力していただく必要があります。
今、目の前にリコーダーがあり、それを使ってきれいな音を出そうとしている御自身を想像しながら読み進めてみてください。
リコーダーと声帯は「うまく音が出せたときの構図」が同じ
ミックスボイス発声に必要な環境を形成するための喉頭筋、これはリコーダー演奏時の「指」に該当します。しっかりとリコーダーに開いている穴を押さえなければ、そこから空気が漏れ、吹いても雑音が混ざった音が出てしまいます。
まずは、しっかりと穴を指で押さえます。そして、息を吹いて音を出すわけですが、特に高音においては、力任せに息を吹いても正確な音が発せられません。高音をきれいに発するためには、しっかりと穴を押さえた上で、少量の呼気を吹き込む必要があります。そうすることで、細くて雑みなのない、きれいな音が発せられます。
勘のいい方はお気づきでしょう。「リコーダーできれいな高音を発すること」と「ミックスボイス発声をすること」は構図が同じなのです。ミックスボイス発声における「穴を指で塞ぐ行為」は、他ならぬ「閉鎖期の生成」になります。この閉鎖期を生成するのは、もちろん声帯筋です。そして、発展途上の声帯筋を機能させるには、最小量の自然な呼気を声帯に送る必要があるのです。
リコーダーと声帯は「うまく音が出せたときに感じる感覚」も同じ
同じなのは、構図だけではありません。両者を実現した際の感覚が、非常に類似しているのです。どちらも呼気が全て音に還元され、しっかりと芯のある音を発せた際、独特の「気持ちよさ」を感じることができます。つまり、この「気持ちよさ」こそ、ミックスボイス発声時の感覚ということができます。
この「気持ちよさ」は「ミックスボイス発声時のバロメーター」になります。ミドルボイスやヘッドボイスの練習時は、この「気持ちよさ」を維持することが絶対条件となります。この感覚が消えてしまう場合は、息漏れや力み発声などにより、正しい発声時の声帯・喉頭筋郡・呼気のバランスが崩れてしまっていることを意味します。練習音域を無理のない音域に戻すなり、練習を中断するなりの対処が必要となります。
以上が、ミックスボイス発声時の感覚となります。参考にしていただけたでしょうか?ミックスボイス実現にお役立ていただければと思います。