ボイストレーニング受講者の10人中10人が「今よりも歌がうまく歌えるようになりたい」という願望を抱いています。そして、その10人中、実に8~9人の人が共通する悩み、もしくは願望が「地声で高い声が出せるようになりたい」というものです。

そもそも「地声」とはどのような声のことを指すのでしょうか?

地声とは、声唇の振動運動で生成される声

地声とはどのような声を指すのでしょうか?具体的な地声の定義について考える前に、地声というのが「声の種類」ではなく、「声の要素」であるということをお伝えしておきましょう。それを理解していただいた上で、改めて地声とはどのような声の要素なのでしょうか?それは、生理的観点から以下のように定義づけることができます。

地声:声唇の振動運動で生成される声の要素

声唇とは、声帯の全体部をあらわす言葉です。この声唇が振動することで生成される声の要素が地声です。一方の裏声というのは、声帯靭帯からのみの振動でもって生成される声のことを指します。

声唇の振動運動パターン

声唇が振動運動する様子をご紹介しましょう。地声発声時の声帯運動は以下の図のようになります。

声帯振動

声帯振動は、このように実にユニークなパターンで行われます。具体的には開閉が上下部で異なるのです。図に示すように、声帯はまず下部から閉鎖します。そして、波が立つようにその閉鎖部が上昇していき、最上部ではじけるようにその両端が離れます

この振動パターンは特に低音域を歌うときに明確であり、音域が上がり、声帯が伸展・緊張するにしたがってこの「波」は小さくなります。この振動を可能にしているのはベルヌーイ力と呼ばれる力です。

正しい地声とは?

ボイス リビルディングでは、地声を3種類に分類します。その三種類は以下の通りです。

  1. 「力み」によって発せられる地声
  2. 「力み」はないが、「声帯のふれあい」が感じられない地声
  3. 「力み」がなく、かつ「声帯のふれあい」が感じられる地声正しい地声

このようになります。これをイメージ化したものが以下の図です。

地声の種類

多くの方は、地声を(裏声にしてもそうですが)力で押し出すように発声することを常としています。地声の力みの多くは、声帯の閉鎖を声帯筋以外の筋肉で行おうとするものです。「力で押し出す声」は、ミックスボイス習得の実現を阻む間違った発声ですので、まずはこの「力み」を取り除くことが必要です。

ですので、まず地声の力みをなくすことから試みますが、多くの方が「力み」を禁じられたとたん、地声が特有の力強さを失い、発声している実感がいまいち持てない地声を発することを余儀なくさせられます。

ですが、しばらく「力み」に頼らずにこの声を出し続けると、少しずつですが、声帯筋が覚醒・機能するようになり、力をいれずに発声している実感が伴う地声が出せるようになります。それまでは、ただなんとなく小さな声だったのが、声の中に「ジジジジ…」という、声帯の先が確実に触れている感触を感じることができるようになります。その声帯のふれあいは「地声の芯」と言えます。芯を得た地声は、どんなにボリュームを小さくしても輪郭を失わない、しっかりとした声となります。ミックスボイスの習得には、この感触が必要不可欠です。

この声帯の触れ合いの感触を得た「正しい地声」のみで構成される声区がチェストボイス、そして裏声が存在する音域にこの感触を保ちながら地声を浸透させた声区がミドルボイスであり、各声区をそれぞれ正しく発声できるように練習することこそがミックスボイスの習得工程そのものなのです。したがって、この感触を感じられるようになるまで辛抱強く練習を続ける必要があります。

少しトレーニング寄りの話になってしまいましが、結論としてはこの声帯筋の機能による「声帯の触れ合い」によって発せられる地声こそ、正しく発せられる地声であるということができます。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitter で